2005年 08月 22日
8月18日の日経金融の1面は、「コンテンツ金融 多彩に」と題して、昨今の映画・アニメといったコンテンツビジネスをとりまく様々なファイナンス手法について紹介している。 最近では、信託法改正であったり、新会社法に基づく有限責任事業組合(所謂日本版LP)等、諸制度面の整備が進み、これを利用した様々な資金調達手法が登場、13兆とも言われるコンテンツビジネスの拡大を後押しする、といった内容の記事だ。 確かにそうと言えなくもないものの、日本のこの分野における発達度は、米国のその成熟度と比較すると、恐ろしく劣後しているのが実情だ。色々な切り口のある金融の中でも、この分野の日米の差は本当に大きいと思う。米国がいかに発達しているかの説明はさておき、とにかくこの記事を読んで過去に苦労して仕上げたディールについて記憶が蘇ってきた(そんなに昔ではないんですけどね)。 私が携わった案件は2件、とある著名ゲーム作品の製作資金をファンド(本件では公募投信の形態であった)で調達する案件、そしてもう一つは、とある会社の保有する映画(日本人なら誰でも知っている映画)の「著作権」の一部を裏付けにSPC(特別目的会社)を使って資金調達をしたものだ。 これらの案件をクローズする過程で直面した問題は、大まかにいって(細かく書いていくと本当に一冊の本になります・・・)、 ①コンテンツビジネスの規模の小ささ ②縦割り行政からくる法制度間の矛盾 ③税務リスク といったところか。 ①については言うまでもないかもしれない。メジャースタジオの製作するハリウッド映画の製作費と日本のそれと比較すると、、、下手すると”0”が二個違う。当然それに付随するファイナンスの規模もそれだけ変わってくるわけであって、ファイナンサーの立場から言えば、高収益なビジネスであるとは決していえない。しかも前例のほとんどない分野であるから通常の案件よりも手間がかかる。本来外資系の投資銀行等は-他の分野でもそうであったように-発達した米国のマーケットプラクティスを日本に移植していくしていく立場にあるのであろう(もちろん法制度、資本市場の成熟度などベースがまったく異なる現状、簡単には移植できないのは明白だが)。しかし残念ながら求められる収益に対して、このマーケットは十分な見返りがない。よって市場は洗練されないまま、かつコンテンツは格安で外国へ流出し、、、まったくをもって悪循環であると思う。 ②も切実な問題だと思う。たとえば上記の案件では「資産の流動化に関する法律」(所謂「SPC法」)と著作権法が非常に重要な法律であったのでが、例えば(著作権法に基づく)著作権を、(SPC法に基づく)SPCに譲渡する、という行為だけでも数々の法律上の不備があった。細かくは書かないが、両方の法律条文を付き合わせて読んだ人はいなかったのではないか?と思えるくらいリンクしていなかったのだ。言うまでもなく、SPC法は金融庁、著作権法は文化庁の管轄だ。 ③については、込み入ったストラクチャードファイナンスをやったことのある人なら、コンテンツに・ファイナンスに限らず、様々な局面で直面したことのある問題であると思う。ここであえてスポットライトを当てたのは、このコンテンツファイナンスという分野は前にも書いたとおり、前例がほとんど存在しない分野であることから、過去の実例の積み上げで得たある種「既成事実」みたいなものが存在しない。こういった場合、これまではこのように処理してきて、一度も当局から指摘されたことがないから、、、、という逃げ道がないのだ。一方で皆さんご存知の通り、税務当局からは、その解釈について外国と違い事前に「お墨付き」をもらえないので、ある意味見切り発車の状態で案件を進めざるをえなくなるのだ。繊細なストラクチャリングに基づいて組成される案件にとっては、事後的に当局がちょっと考え方・解釈を変えるだけで、そのストラクチャーが根本から崩されてしまうことがある、というのは致命的なのだ。 上記以外にも、例えば知的所有権である特許権を一つ譲渡するだけでも結構なコストがかかったりする。これによってグループ会社各社に散らばっている特許を新たに設立した特許管理子会社に集約する、といったような戦略を断念した会社は何社もある。 経済産業省を旗振りに次世代の日本の最大の輸出品として知的財産がクローズアップされているものの、そのさらなる発展には、数々の諸制度面の後押しが必要であると思う。 とまぁ不満たらたらになってしまったのだが、少なくとも私が携わった案件については、クライアントはもとより各省庁の現場の方々の真摯かつ多大なご協力があって、クローズすることができたことを最後に付け加えておく。
by flautebanker
| 2005-08-22 00:16
| business
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アバウト
20代後半に日本の金融機関から外資系投資銀行へ転職。毎日悪戦苦闘しながらディールを追っかけていく日常を徒然なるままに。一流の金融マンへの道は遠く険しい。。。 by flautebanker カレンダー
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