投資銀行家への道

flbanker.exblog.jp
ブログトップ
2007年 07月 27日

グリーンメーラー?濫用的買収者?

「グリーンメーラー」:保有した株式の影響力をもとに、その発行会社や関係者に対して高値での引取りを要求する者をいう。

昨今、日本市場においてもようやくM&A全般にかかるルールが整えられ始めました。会社法や金融商品取引法(旧・証券取引法)に代表されるM&Aに関連する法制度の整備だけでなく、その運用面における司法の判断、つまり判例の積み重ねが非常に重要となります。

そんな中、非常に驚くべき判断が東京高裁によってなされました。メディアを賑わせている事案ですので皆さんもご存じかと思いますが、某社と某ファンドの対決局面における買収防衛策の発動です。その防衛策の法的な評価は他に譲るとして、私が最も驚いたのは当該ファンドが東京高裁によってこともあろうに「濫用的買収者」と認定された点です。この「濫用的買収者」がいわゆる「グリーンメーラー」と同義かどうかは微妙な議論ではあります。ただし、買収防衛策自体がその性質として株主にとって必ずしも平等ではない以上、その発動の根拠としては、会社の所有と経営の分離の大原則において、その買収防衛策の対象が活動的なアクティビストくらいでは正当化できないのは明白です。従って、高裁の言うところの濫用的買収者は、グリーンメーラーに極めて近い存在として扱われていると解釈されても致し方ないのではないでしょうか。むろん本案件にかかる最終的な結論は最高裁の判断に委ねられることが予想されますが、いずれにしても極めて踏み込んだ判断であると感じるのは私だけではないと思います。

さていくつかのポイントとしては、まず高裁が「濫用的買収者」と判断した根拠の一つとして「投資ファンドという性格上、顧客利益を優先、短中期的に株式転売でひたすら自らの利益を追求する存在」という下りがあげられます。ファンドという仕組みの性質上、顧客の利益優先なのはごくごく当たり前のことです。またこの某ファンドの投資行動が「企業価値を毀損するもの」とも高裁は述べています。これにはさすがに私も目を疑いました。企業価値を毀損させて一番困ってしまうのは、まさしくこのファンドであり、株主です。株主が自らの投資価値を毀損させるような行動をとるインセンティブはどこにあるのでしょうか。

「株式会社は理念的には企業価値を最大化して株主に分配する営利組織である。(略)従業員、取引先など多種多様な利害関係人(ステークホルダー)との不可分な関係を視野に入れた上で、企業価値を高めていくべきものであり」とここまではいいのですが、
「企業価値について、専ら株主利益のみを考慮すれば足りるという考え方には限界があり、採用することができない」とあります。
この投資家は少なくとも従業員を全員解雇するとか、取引先を全部変えるなどという無茶苦茶なことは表明していないはずです。さらにいえば、会社の所有と経営の分離の大原則を鑑みれば、果たして経営計画も必要なのかという疑問にもつながりますが、そもそも日本の開示基準の基づいた公開情報だけで、経営計画を作成するのは神業といいますか、はっきりいって不可能です。仮に無理やり作ったところで、それはまるで現実味のないものとなることは自明です。

2005年の東京高裁が示した濫用的買収者の類型として挙げられているのは下記の4つとなります。
(1)経営参加の意思がなく、高値で株式を会社関係者に引き取らせる
(2)経営に必要な知的財産、企業秘密、取引先などを買収者に移譲させる
(3)会社資産を、買収者の債務の担保や弁済原資に流用する
(4)不動産、有価証券などの資産を処分した利益で配当を高くし、株価をつりあげて売り抜ける

(1)は典型的なグリーンメーラーを指します。さすがに今回のケースでは該当しないことは明らかです(とはいえ、こういったファンドがMBOを提案したらアウトなのか、という疑問は残ります)。(2)は競合他社が仕掛けてきたことを想定しているのでしょう。実業を伴わないこのようなファンドには原則的に該当しません(ただし究極的には同業を傘下にもつバイアウトファンドが敵対的な買収を仕掛けたら、該当する可能性もあるのかもしれません。ただし大抵のバイアウトファンドは敵対的な買収はファンドの規約上禁じられてますので、現実的にはありえないのでしょう)。(3)は本件の根拠としてはあげられてはいませんが、そもそもLBOは買収対象資産、ないしは買収対象企業のキャッシュフローに依拠したファイナンス手法です。ただし前述の通り、通常のバイアウトファンドは敵対的買収を仕掛けることはないので杞憂でしょう)。
となると、今回は(4)に該当するということでしょうか。「つりあげて」という言葉が、いかにも「仕手筋」を連想させますが、いずれにしても某ファンドがこの類型に該当すると判断させるのに十分な根拠を内包した経営計画を提出していたのか、非常に疑問です。

さて振り返ってみて、この件で一番損したのは誰でしょう。
本新株予約権の買い戻し会社にとって決して経済的に小さな負担ではないように思います。通常の設備投資のような資本的支出ではなく、少なくとも目に見えるリターンはありません。従って株式価値に与える影響は小さくありません。加えて非常に仕組みは複雑です。実際の発行実務には苦労するのではないでしょうか。また異例の仕組みであったことから、東証での取扱いも迷走しました。結局一般株主がワリを食ったように思います。

そして何よりもこのやや不透明な決定によって、ただでさえ出遅れ感のある日本の株式市場に向ける海外からの目が、一層冷めたものになりやしないか非常に心配です。

最後にこんなサイトを見つけました。
http://www.ilinkinvestment.com/quiz/q20070129.html
グリーンメーラーというのは、緑の手紙ではなくて、ドル紙幣の緑の印字と、ブラックメール(脅迫状)を掛け合わせた造語というのが一般的なんですけどね。しかしこの問題文の冒頭の表現も高裁と同様に踏み込んだ表現ですね(笑)。
[PR]

by flautebanker | 2007-07-27 19:57 | business


<< 過保護ニッポン      変化 >>